シニア期の猫の多くが発症する慢性腎臓病。うちの病院にも、たくさんの患者さんがいらっしゃいます。
猫の寿命は平均15歳くらいと言われます。「猫が30歳まで生きる日」というこのタイトルを初めて見たとき、獣医師として正直少しだけ身構えました。夢物語なのかそれとも本物の希望なのか。
この記事では、この本を読み込んだうえで、私(元公務員獣医師)と、動物病院院長で日々多くの犬や猫の診療にあたっている夫の正直な本音を、いいところも気になるところも包み隠さずお伝えします。
そもそも猫の腎臓病ってどんな病気?という方は、こちらの記事を先に読むと本の内容が分かりやすくなります。

『猫が30歳まで生きる日』ってどんな本?
この本は、「なぜ猫は、これほど腎臓病で命を落とすのか」という長年の謎に、1つの答えと治療法を示した一冊です。
著者の先生の経歴
著者は、免疫学者として長年「AIM(エーアイエム)」というタンパク質を研究してきた宮崎徹先生。フランスやスイスの研究所で長く自己免疫制疾患などに関する研究をされたあと、2006年〜2022年は東京大学大学院医学系研究科教授を歴任。
22年4月より一般社団法人AIM医学研究所代表理事・所長になられた方です。
にゃーす宮崎先生は、獣医師ではなく医師です。
本の核心:「AIM」というタンパク質
私たちの体の中では、日々たくさんの細胞が死んで「ゴミ」が出ています。
そのゴミを掃除してくれるときに活躍するのがAIMというタンパク質。AIMはゴミの表面にくっついて「ゴミがここにあるよ〜」と掃除係のマクロファージに教えます。マクロファージはゴミを食べて片付けてくれます。
猫の体内にもAIMはあります。ですが、他の動物と違って独特な形をしているそうです。
- 独特の形のせいでゴミの表面にうまく貼り付けない
- 「ゴミ」が掃除されずに腎臓に溜まる
- 高い確率で腎臓病を発症する
これが「ネコ科動物が年を取ると腎臓病が増える理由」だそうです。
慢性腎臓病の予防と治療のために!描かれる希望
本の中では、AIMの投与直後から元気や食欲を取り戻したり、血液検査の値が改善した末期腎不全の猫の症例も取り上げられています。
このような報告を見ると、こんな希望が湧いてきます。
- 発症したあとでもAIMを補えば、腎臓のゴミが掃除されて元気になるのでは?
- 子猫のうちからAIMを定期的に投与しておけば、腎臓病を予防できるのでは?
それが実現すれば猫の寿命は大きく延び、いつか「30歳まで生きる日」も夢ではない。



本書のタイトルは飼い主さんの願いそのものです
FeliAIM承認申請の現在地


この本は2021年8月に初版が出版されました。そのため、本の内容は「新型コロナウイルス感染症の影響で、研究や開発が一旦止まっている」というところで終わっています。
しかし、その後研究は再開し、治験を経て新薬の販売許可申請まで進んでいるのです。
2026年4月、農林水産省に製造販売承認を申請
以下は2026年7月時点の情報で、AIM医学研究所のホームページをみて調べた情報です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 薬の名前 | FeliAIM(フェリエイム) |
| 申請日 | 2026年4月24日、農林水産省へ製造販売承認申請 |
| 対象 | 高齢の猫に多い慢性腎臓病(CKD) |
| 段階 | 治験は終了。現在は国の審査中(=まだ市販されていません) |
通常、新薬の審査には半年から1年程度かかります。順調なら2026年年内〜来年春頃、実用化される見込みかも?というところです。
FeliAIM(フェリエイム)の名前は公募で決定
新薬の名前は、10,132件の応募の中から決定されたそうです。
ラテン語で「猫」を意味する「Felis」と「AIM」を組み合わせ、喜びや幸せを意味するFelice(イタリア語)の意味が含まれています。



飼い主さんの期待の高さが伺われるね
現場の臨床獣医師は、どう見ている?


元公務員獣医師で犬猫を診察したことがない私でも本を読んでワクワクするくらいなのだから、現場の獣医師もさぞ期待しているにちがいないと思って夫に聞いてみました。
ところが予想に反して、とても冷静な反応。
日々、多くの犬や猫を診療する夫の正直な意見はこちらです。
臨床獣医師が気になるポイント
あくまで一意見です。
- 治験を行った頭数がまだ少ない所、薬を与えた以外の条件は揃っているのかなど、治験の内容が気になる。新薬として判断するには、そこがすごく大事。
- 一般のメディアやニュースにはよく取り上げられるのに、獣医師が読む専門誌・論文・学会では、ほとんど見かけない。
- 普通、新薬が出る前は、病院に出入りする製薬会社や卸業者さんからいろんな話が聞こえてくるもの。でも、今回は全然聞かない。
- 承認されて発売されても、そのまま消えていく新薬は山のようにある。
- 新薬が動物医療の現場に根づくには、獣医師の学会や臨床現場、製薬会社とのつながりがこれから必要なのかもしれない。
もちろんこれは、夫が「この薬はダメだ」と言っているわけではありません。そこは誤解なきようにおねがいいたします。
でも私は、この視点こそ大事だなと思いました。
実際に慢性腎不全の猫を治療している人だからこそ気づくこと。飼い主さんだと、なかなかわからない情報です。
飼い主さんにできること


夫の慎重な見方を聞いても、私はこの本と研究の価値が下がったとは思いません。
ネットでは新薬の早期承認を求める署名が起こりましたし、寄付金も約3億円集まったと報告があります。
その気持ちに、私は獣医師として心から共感します。
期待しつつ、現実も見よう
今の状況を整理するとこうです。
- 希望は本物になりつつある … 実際に承認申請という現実に進んだ
- 「今日買える薬」ではない … 2026年7月時点でまだ審査中。市販はされていません。
- 現場の獣医師はまだ冷静 … データや実績はこれから見極める段階
FeliAIMは静脈注射もしくは、点滴で猫に投与する薬になるそうです。
猫のケアは毎日コツコツと
新薬に期待を寄せる気持ちはとてもよく分かります。でも、承認にはまだ時間がかかるでしょう。
今、愛猫の健康を守れるのは、飼い主さんの毎日のケアです。
- 7歳を過ぎたら、年1〜2回の健康診断で早期発見を
- 水をよく飲める環境づくり、療法食など、今できる腎臓ケアを続ける
- 「数値が気になる」段階で、早めに主治医に相談する



新薬を待ちながら、今日できるケアもコツコツしていこうね!
まとめ


『猫が30歳まで生きる日』は、猫と暮らすすべての人に「希望」をくれる一冊です。そしてその希望は、FeliAIMという形で、今まさに現実になろうとしています。
ただ、私たち獣医師夫婦の正直な結論はこうです。
※本記事のFeliAIMに関する情報は2026年7月時点のものです。また状況が変われば次第、追記・更新します。
noteでこの本のレビュー番外編として、個人的に「おぉ!」となったポイントをご紹介しています。



