猫の慢性腎不全は、シニア猫に多く見られる病気で、ある日突然症状が始まるのではなく、何年もかけてじわじわ進行するのが特徴です。進行すると尿毒症を起こして命の危機につながることもあります。
慢性腎不全は完治はしません。しかし、早期発見と正しい治療によって、進行をゆるやかにし、体調を安定させることで猫との穏やかな生活を長く続けることができます。

実際に、診断から何年も元気に過ごしている猫もたくさんいます。
この記事では、慢性腎不全の基礎知識から症状、検査、治療、そしておうちでできるケアまで、飼い主さんが知っておきたい情報をわかりやすく解説します。慢性腎不全の治療のうち、臨床獣医師が一番効果があると感じる治療法も紹介します。ぜひ、参考になさってください。
慢性腎不全とは


腎臓は、体の中の老廃物や毒素をおしっことして出したり、水分・ミネラルのバランスを調整して血圧を調整したりする大切な臓器です。
シニア猫に慢性腎不全が多い理由
腎臓には、普段から、食事や脱水、感染症、中毒などによる負担がかかっています。また、腎臓に限らず、年を取ると臓器の働きは少しずつ衰えます。
腎臓の組織は、一度傷つくと、細胞が生まれ変わったり元の状態に戻ったりするということはありません。高齢になるにつれ、腎臓のダメージが表に出てくるのです。



猫も高齢化が進み、慢性腎不全と診断される猫が増えている
「急性」腎不全は別の病態
急性腎不全は、慢性腎不全とは違う病態で、数時間〜数日という短期間で急激に腎臓の働きが悪くなるものです。



猫の年齢もあまり関係ありません
急性腎不全の原因には、以下のようなものがあります。
- ユリ科の植物(特にユリ)を食べてしまった
- 痛み止めや抗生物質など、薬剤の副作用
- 脱水や熱中症などで血流が悪くなった
- 尿路閉塞でおしっこが出せない
- 細菌感染による腎盂腎炎などの炎症
それまで元気だった猫が、今のような症状があったら、すぐに動物病院に行って、緊急の処置を受ける必要があります。
- 突然ぐったりしてご飯も食べない
- 嘔吐や下痢をする
- 尿が出ない
続発性の慢性腎不全(二次性腎不全)にも注意
慢性腎不全は腎臓そのものの老化やダメージが原因のもの以外にも、他の病気が原因で起こることがあります。これを続発性の慢性腎不全といいます。
例えば、以下のような病気でも腎臓に負担がかかります。
- 心不全
- 高血圧
心不全
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を持っています
心臓の動きが悪くなると腎臓に十分な血液が届かず、腎臓の機能が低下したり、組織が傷ついたりする結果、慢性腎不全を引き起こします。
高血圧
腎臓の糸球体という毛細血管の部分では、血液をろ過しておしっこを作っています。高血圧になると、糸球体という細かい血管に高い圧力がかかって痛むため、ろ過の機能が低下し、蛋白尿が出たりして慢性腎不全になります。



腎臓が悪いときは、他の臓器の状態もチェックしよう
慢性腎不全の症状


猫の腎不全では、以下のような症状が見られます。
初期にみられる症状
- よく水を飲むようになった
- 薄いおしっこをたくさんするようになった



飼い主さんが気づきやすいサインだよ
早期発見できれば、治療やケアで進行をゆるやかにできることも多いです。
進行すると出てくる症状
- 食欲が落ちた
- 体重が減ってきた
- 毛づやが悪い、元気がない



老化のサインと間違いやすいから注意
急いで受診が必要な症状
- 嘔吐
- アンモニアの匂いのする口臭
- 口内炎
- 元気消失



これらの全身症状は、尿毒症になっている可能性も
尿毒症とは、腎臓の働きが悪く、老廃物や尿毒素が排出できずに血液中を巡っている状態です。進行すると、痙攣や意識障害を起こすこともあり、危険な状態です。これらの症状が見られたら、早めに動物病院に行きましょう。
慢性腎不全の検査


慢性腎不全では、血液検査や尿検査で腎臓の状態を判断します。
慢性腎不全がどの程度進行しているかを示したのがIRIS(アイリス)分類です。IRIS分類は、血液検査の数値を使って慢性腎不全の進行度を4段階で評価したもので、治療方針を決めるために使用します。
- ステージ1:慢性腎不全の初期症状はあるが、血液検査の数値は正常範囲
- ステージ2:軽度の腎機能低下。軽度の臨床症状あり。状態により投薬を開始する
- ステージ3:中等度の腎機能低下。脱水、食欲低下、嘔吐などが出やすく、すぐ治療が必要
- ステージ4:重度の腎機能障害。尿毒症症状みられ、緊急の処置が必要なことも
ただし、数値はあくまで目安で、猫の様子や検査結果を総合的に見て判断されます。
慢性腎不全の治療


慢性腎不全の治療は以下の状態を目指して行います。
- 腎臓の負担を減らし、進行を遅らせる
- 症状が出ないように体調管理をする
- 生活の質を上げる
よくある「治療の3本柱」
慢性腎不全の治療方法は、以下の3つを腎臓の状態を見ながら組み合わせる方法が推奨されます。
- 食事療法
- 薬物療法
- 点滴(皮下補液)
① 食事療法
慢性腎不全の治療の中心とされているのは食事療法です。
慢性腎不全の猫のご飯には、たんぱく質やナトリウム、リンなどの量が制限された腎臓ケアのための療法食を与えることがいいとされます。これは、尿素やアンモニアなどの老廃物が生成されるのを抑え、高血圧の予防にもなります。
② 薬物療法
ステージ2以降で必要になることが多いです。
使われる主な薬は、
- ACE阻害薬:蛋白尿や高血圧の抑制
- 制吐剤:尿毒症による吐き気の緩和
- エリスロポエチン製剤や鉄剤:貧血の治療
猫用の慢性腎臓病治療薬ラプロスについて
ラプロスは、2017年に日本で承認・発売された猫用の慢性腎臓病治療薬です。主に初期〜中期の慢性腎不全の猫に経口で投与され、腎臓の線維化(腎臓が硬くなってうまく働かなくなること)を抑える作用があるとして注目されています。



即効性のある薬ではなく、進行を抑えるための薬です
③ 点滴(皮下補液)
腎臓の血流量を保ち、老廃物の排出を促すため、脱水には気をつけないといけません。特にステージ3以降では体調や飼い主さんの都合とも相談しながら、毎日〜週に1回程度の頻度で点滴を行います。
「自力で水を飲めるから点滴はいらない」という訳ではなく、脱水や腎臓の状態をみながら点滴の必要性や頻度を決定します。



飼い主さんが自宅でできると、通院の手間や猫への負担が軽減されます
効果が高いのはどれ? 現役の臨床獣医師による治療の実感
療法食は嫌がって食べない猫が多い
慢性腎不全の猫は、食欲が低下していることが多いです。
食事療法は、慢性腎不全を早期に発見でき、まだ食欲があるうちならうまくいくこともありますが、基本的に療法食は食いつきよりも治療を目的として作られているため、好んで食べる猫はあまりいません。



すでに食欲低下している猫では、なかなか使えないのが現状
対策:食べやすいフードを与えて体力を付けさせる
食事療法は、療法食が理想ではありますが、食べない日が続くと体力が落ちてしまします。
そんなときは、子猫用のフードや流動食、ちゅ〜るのようなおやつは、食いつきがよく食べやすい形状であるため、食べない時の「つなぎ」として使います。
ただし、長期的にはリンやタンパク質の制限が必要なので、獣医師と相談しながら調整していきましょう。



まずは「食べられるものを食べさせる」ことが優先
おうちでできるケアと猫との向き合い方


上で紹介した療法食、投薬、点滴以外に、おうちでできる猫のケアを紹介します。
- しっかり水を飲ませる
- 体調管理に気をつける
- ストレスのない生活
- 定期的な通院
しっかり水を飲ませる
脱水を予防するのは、慢性腎不全の治療の基本です。
室内に数か所水飲み場を設置し、新鮮な水を入れていつでも水を飲める環境を作りましょう。



冬はぬるま湯でもいいよ
また、国内で販売されている、腎臓ケア用の療法食にはドライタイプ、ウェットタイプの療法があるので、食事といっしょに水分を摂取しやすいウェットタイプに変更してみるのもよいでしょう。
体調管理に気をつける
病気の悪化サインに早く気づくため、毎日食欲、飲水量、排尿回数、元気をチェックしましょう。体重は週1回測定するのがおすすめです。
ストレスのない生活
ストレスは食欲低下や体調悪化の原因になります。
静かで落ち着ける環境を用意しましょう。猫の性格上、心配だからといって構い過ぎもストレスになります。程よく声をかけ、猫のペースを尊重しましょう。
定期的な通院
慢性腎不全の進行を確認するために、獣医師の指示に従い血液検査、尿検査、血圧測定を定期的に受けましょう。「元気そうだから大丈夫」と思っても、実は進行しているということもあるため、自己判断は禁物です。
まとめ


猫の慢性腎不全は、高齢化にともなって避けられない側面もありますが、「適切なケアをすれば、穏やかに過ごせる時間をしっかり延ばせる」病気です。
療法食・投薬・点滴という3つの治療法を柱に、日々の体調チェックやストレスの少ない環境づくりなど、飼い主さんの心がけが猫のQOL(生活の質)に大きく関わります。
異常に早めに気づき、治療やおうちでの丁寧なケアを続けていくことで、猫との時間を長く過ごせるようにしましょう。