こんにちは、「獣医師夫婦にゃーす」です。
春は動物病院が一年で最も忙しくなる季節。理由はいろいろありますが、そのひとつが「フィラリア予防シーズンの到来」です。
フィラリア症は、蚊を介して感染が広がっていきます。何年も症状が出ない犬もいる一方、突然の失神や急死を招くこともある怖い病気です。しかし、正しく予防薬を使えば、ほぼ100%予防できる病気でもあります。
この記事では、フィラリア症の症状や予防方法、薬の種類や選び方、費用の目安まで、獣医師の視点からわかりやすく解説します。予防の重要性を知って、愛犬の健康を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
フィラリア症とはどんな病気?
まずは、フィラリア症の基礎知識を解説します。
フィラリア症は、フィラリア(犬糸状虫)という、そうめん状の白く細い虫が寄生することで起こる病気です。フィラリアは、主に肺動脈という右心室から肺に血液を送る血管に寄生するのを好みます。成虫は大きいものでは30cmにもなり、多数の虫が血管を詰まらせることで様々な症状を引き起こします。
フィラリア症の感染サイクル
フィラリア症は蚊によって感染が広がっていく病気です。フィラリア症の感染サイクルを説明します。
- フィラリア症に感染している犬の血を蚊が吸う
- 血液中のミクロフィラリア(子虫)が蚊の体内に入る
- その蚊が別の犬を吸血すると、ミクロフィラリアが犬の体に入る
- 犬の体内でフィラリア子虫が成長し、心臓や肺動脈に詰まる
- フィラリア症を発症する
フィラリア症の症状
フィラリア症の症状は、寄生数や寄生部位によって様々です。感染初期のうちは、虫の数も少なく小さいため、あまりはっきりとした症状は出ません。フィラリア症の症状が出るのは、感染から数年経っていることが多いです。
一般的なフィラリア症の症状は以下のとおりです。
- 乾いた咳をする
- 元気がなくて疲れやすい
- 食欲が低下し、やせる
- 散歩や運動を嫌がる
- 呼吸が早く浅くなる
フィラリア症が進行すると、以下のような症状も出てきます。
- 腹水がたまる
- 運動後に失神する
- 血色素尿(真っ赤〜コーヒー色のおしっこ)が出る
命に関わる「大静脈症候群(だいじょうみゃくしょうこうぐん)」
フィラリアが何らかのきっかけで肺動脈から右心室や右心房に移動すると、心臓の弁がうまく閉じられなくなることがあります。その場合、失神やショック症状などを起こし、急激に体調が悪化することもあり、緊急の処置が必要です。
フィラリア症の検査方法
動物病院では、以下のような検査を行います。心エコー検査、X線検査といった画像診断では、フィラリアの寄生数や寄生している部位に加え、フィラリアが寄生していることで異常な血流が発生していないかや血流量を調べます。
- 血液検査:結果が出るまで10分程度
- 心エコー検査:無麻酔で15分程度
- X線検査:無麻酔で15分程度
フィラリア症の治療方法
フィラリア症と診断されたら、駆虫薬で治療します。ただし、一気にフィラリアを駆虫すると死んだ虫が血管に詰まってしまうリスクがあるため、弱めの駆虫薬を使って数年かけてゆっくりと虫を減らしていきます。
大静脈症候群を起こしている場合
緊急の手術が必要です。麻酔をかけてフィラリアの寄生している血管を開き、虫体を取り出します。手術は難易度が高く、犬の体への負担や、費用面の負担も大きいです。
フィラリア症は、かかってしまうと治療に年単位かかる、最悪の場合は命を落とすこともある怖い病気であることは分かっていただけたでしょうか?ここからは、フィラリア症の予防について考えていきましょう。
フィラリアは予防できる病気
蚊に刺されるのを完全に防ぐことはできませんが、フィラリア症は予防薬を毎年正しく使うことでほぼ100%予防することができる病気です。
子犬からシニア犬まで、すべての犬に予防が必要
年齢、犬種、飼育環境に関係なく、蚊に刺されればフィラリア症に感染する可能性があります。気をつけていても、部屋に蚊が入ってくることはあるので、室内飼いでも油断は禁物です。子犬も生後2ヶ月を過ぎていたら予防薬を投与しましょう。
フィラリア症の予防薬の種類
現在、フィアリア症の予防薬には、投与の方法や、犬の生活スタイルに併せて、様々なタイプの薬が登場しています。主なものは以下の4つです。
- 錠剤
- チュアブル
- 滴下薬
- 注射薬
それぞれの薬の特徴を比較してみましょう。
薬の種類 | 特徴 | 薬を使う間隔 |
---|---|---|
錠剤 | 費用が安い 薬を飲むのが苦手な犬には向かない | 1ヶ月に1回 |
チュアブル | おやつタイプの薬で、食いつきがいい ノミ・ダニ予防が同時にできる製品もあり、現在一番人気がある 添加されている食品(牛肉など)にアレルギーのある犬では使用できない | 1ヶ月に1回 |
滴下薬 | 薬を飲むのが苦手な犬に、首の後ろに滴下する 滴下したあとに舐めたり、体を振らないように注意 | 1ヶ月に1回 |
注射薬 | 1年に1度でよく、飲ませ忘れがない 薬の保管期間の関係で、注射ができる期間を決めている病院もある | 1年に1回 |
人気は、フィラリア症予防とノミ・ダニ駆除がいっぺんにできるチュアブル
これらの薬の中で現在一番人気があるのは、ノミ・ダニ駆除も同時にできるチュアブルタイプの薬です。牛肉が入っており、喜んで食べる犬も多いです。
飲ませ忘れの心配がなく、年1回でいい手軽さから、注射薬も人気があります。
予防薬処方の流れ血液検査
まず、血液検査をして、現段階でフィラリア症に感染していないかを確認します。検査費用の目安は2,000〜4,000円です。
感染していないことが分かったら、犬の体重に応じて予防薬を処方します。注射薬はその場で獣医師が処置し、錠剤とチュアブル、滴下薬は持ち帰りになります。
フィラリア症Q&A
フィラリア症や予防薬について、飼い主のみなさんから聞かれる質問にお答えしていきます。
Q、錠剤・チュアブルは何月から何月まであげればいいですか?
A、初夏〜晩秋の7、8ヶ月間としている動物病院が多いです。しかし、近年暖かくなる時期が前倒しになっており、薬の服用開始を早めたり、通年の服用を勧めているところもあります。
Q、いつ頃動物病院に薬をもらいに行けばいいですか?
A、3,4月頃、外が暖かくなってきたら動物病院を受診しましょう。ちょうどこの時期は、狂犬病の予防接種や、ダニ・ノミなど寄生虫の駆除のシーズンになるので、まとめて受診するのがおすすめです。
Q、飲み忘れに気づいたらどうしたらいいですか?
A、1回分を忘れていたら、気づいた時にすぐに与えましょう。2回分以上飲ませ忘れていたら、その間にフィラリア症に感染している可能性があるので、再び動物病院で血液検査を受けることをおすすめします。
Q、薬以外の予防法はないですか?
A、蚊取り線香は100%蚊が来なくなるわけではありません。火災や感電など思わぬ事故の心配もあります。薬で確実に予防しましょう。
まとめ〜にゃーすから飼い主のみなさんに伝えたいこと〜
「春は動物病院が混んでいて、いっぱい待つのは嫌だなぁ」と思われる方もいるかもしれません。でも、フィラリア症のことを学んで、怖さと予防の大切さを知った今、行動にうつすことが愛犬の命を守ることにつながります。早めに動物病院を受診して、愛犬の健康をしっかり守ってあげましょう。
予防薬は「蚊のシーズン、安心して過ごすためのお守り」です。皆さんの愛犬が、元気に夏を過ごせますように。
動物病院でお待ちしています!