- 一日中、鳴いている
- 狭いところに潜り込んで出られなくなった
- 一方向に歩き続けている
これらは、認知症になった犬によく見られる症状です。
犬の認知症(認知機能不全症候群)は、シニア犬に見られる脳の老化による病気です。飼い主としては戸惑い、時には対応に疲れてしまうこともあるかもしれません。
私自身も、子どもの頃に実家で飼っていたシベリアン・ハスキーが13歳で認知症を発症し、15歳で亡くなるまで両親が中心となり介護をしました。その経験から、飼い主さんの悩みやつらさもよくわかります。
この記事では、認知症の原因や症状、介護方法までを獣医師の視点から解説し、最期まで穏やかに寄り添えるようなヒントをお届けします。
にゃーすうちの実家の犬も認知症だったよ
犬の認知症とは?原因と発症のメカニズム


年を取ると、脳が萎縮したり、アミロイドというタンパク質が脳に沈着したりすることで、神経細胞の働きが阻害されるようになります。
ただし、こうした加齢性の変化は程度の差はあっても、認知症の症状がない健康な高齢犬にもある程度は見られるものです。
その加齢性変化が過度に進行すると、「何かを判断したり、考えたり、記憶したりといった脳の働き(=認知機能)が低下して、日常生活に支障が出ている状態」になります。この状態を認知症といいます。



認知症そのものが、亡くなる原因になることはないよ
発症は12歳から増加
認知症の発症割合は、年齢とともに上がっていくことがわかっています。
- 12〜14歳:約15%
- 14〜16歳:約30%
- 16歳以上:約60%
ただし、これはあくまで割合であり、認知症にならずに最期を迎える犬もたくさんいます。
犬種による違いはあるの?
認知症を発症しやすい犬種や性別の差は、はっきりとはわかっていません。ただし、柴犬や秋田犬などの日本犬や、その血が入った雑種に多いという報告もあります。
認知症の進行段階ごとの症状と対策


犬の認知症は少しずつ進行していく病気です。ここでは、飼い主さんが気づきやすい順に、時系列で症状を整理しました。
初期:飼い主が「あれ?なんかおかしいかな?」と気づく
- 名前を呼んでも反応が鈍い
- 散歩中に慣れた道で迷う
- 昼間に寝てばかりで夜中に活動的になる
- 何度もご飯を催促する
- ぼーっとしている時間が増える
1〜2項目でも当てはまる場合は、軽度の認知機能の低下が始まっている可能性があります。
この時期にできる対策
認知症の初期の段階では、次のような事から始めてみましょう。
- 散歩の時間・食事の時間・寝る時間をできるだけ毎日同じリズムにする
- 日中の散歩や日光浴の時間を少し増やし、体を動かす機会を作る
- おねだりに毎回応じると太るので、食事の回数・量を見直す
- 「いつから」「どんな変化か」を簡単にメモに残しておく
- 知育トイやノーズワークなど、頭を使う遊びを日常に取り入れ始める



生活リズムの調整や食事の見直しなど、早めの対策を
中期:日常生活に支障が出始める頃
- 夜鳴きを繰り返す
- 家具などの狭い隙間に入り込み、出られなくなる
- 旋回したり、同じ場所を行き来したりする
- 粗相が増えた
- 飼い主や同居のペットに無反応になる
- 性格の変化(攻撃的、無気力になる)
- 食欲の変動が激しい
この段階になると、認知症によくある症状が現れ、日々のちょっとした工夫だけでは対応しきれなくなってきます。
この時期にできる対策
中期の段階でできる対策をまとめました。
- 動物病院を受診し、認知症以外の病気が隠れていないか確認してもらう
- 投薬やサプリメントで進行を緩やかにできないか、獣医師に相談する
- 家具の配置を見直し、隙間や段差など、はまり込みや落下の事故が起きそうな場所をふさぐ
- 就寝時間や消灯のタイミングを家族内で決め、昼夜のリズムを作る
- トイレシーツを多めに用意し、粗相の対策を万全にする



診断をうけ、生活環境の整備や介護計画を具体的に考えよう
性格の変化は、認知症ではなく脳やホルモン系の病気の可能性もあります。獣医師に相談し、今の状況を診察してもらいましょう。
終末期:介護が中心になる段階
- 自力で立てない、歩けない、寝たきりになる
- ご飯や水を自力で口にしない
- 鳴かなくなる
- 排泄が垂れ流しになる
- 褥瘡(床ずれ)ができ始める
この時期になると、ご飯や水も介助が必要になり、飼い主さんの介護の負担が大きくなります。
この時期にできる対策
獣医師とも相談しながら、愛犬にとって穏やかな時間をどう作るかを考えていきましょう。
- 2〜3時間おきを目安に体位を変え、床ずれを予防する
- 流動食や強制給餌が必要か獣医師に相談する
- 寝床を清潔で柔らかい状態に保つ
- 家族内で介護のシフトを決め、ひとりだけに負担が集中しないようにする
- 在宅でどこまで看るか、入院や往診も含めてどう対応するかを、早めに獣医師と話し合っておく
介護は先が見えず、気持ちが塞いでしまうことも。必要に応じて、介護サービスの利用を検討するのもよいですね。
認知症と寿命・死期
「認知症=直接の死因ではない」とはいえ、認知症になると余命が短くなる傾向があることは事実です。
臨床現場の経験や報告では、認知症と診断された中〜重度の犬の多くは、診断から半年〜2年以内に亡くなることが多いとされています。
寿命を左右する要因には、次のようなものがあります。
- 基礎体力や持病の有無:心臓病、腎臓病、がんなどの持病があると、短命になる傾向があります
- 体力の消耗:夜鳴きや徘徊が続くと、体力を消耗しやすくなります
- 介護の質:寝たきりによる筋力低下や栄養不良、床ずれを防げるかどうかが大きなカギになります



実家のハスキー犬は13歳で認知症を発症、15歳で亡くなりました。
夜鳴きの原因と対処法:感情のない鳴き声は要注意


認知症の夜鳴きには、単調で感情がこもっていないという特徴があります。一方で、叫ぶように鳴く子もいます。
認知症の夜鳴きと要求吠えの違い
ただし、シニア期の犬が夜中に吠えたからといって、すべてが認知症の症状というわけではありません。
次のような理由で鳴いていることもあります。
- 夜中にたまたま目が覚めてしまい、寂しさから飼い主さんを呼んでいる
- 痛みや、排泄の不快感がある
要求吠えの場合は、はっきりとした「ワンワン」という鳴き方をし、要求が叶えば大人しくなることが多いのが特徴です。
夜鳴きを和らげるケア
夜鳴きの対策は、生活リズムを整えることが一番の近道です。昼夜逆転で昼間に寝てしまうことが、夜起きてしまう原因につながっています。
昼間は散歩や運動をして体力を消耗させ、夜は疲れて眠れるようにリズムを整えましょう。日中にしっかり日光を浴びることも、体内時計を整える助けになります。
老犬は排泄の力も落ちるため、便が腸に残っている不快感から鳴くこともあります。日中しっかり運動させることは、排泄のサイクルを整えたり刺激を与えたりすることにもつながるのでおすすめです。



生活リズムを整えるのが一番の近道だよ
犬の認知症の治療は、薬・食事・サプリで進行を緩やかに


認知症は脳の変性が原因の症状です。



治療をしても昔の状態に戻ることはありません
薬やケアは、認知症の症状を穏やかにし、進行をゆるやかにすることを目的に行います。薬による治療だけでなく、サプリメントや食事管理による日常的なサポートも、認知症ケアの基本になります。
抗不安薬や鎮静剤などの投薬
犬の症状に合わせて、獣医師が抗不安薬や鎮静剤などを処方することがあります。最近では、夜鳴きや徘徊の改善に、人の認知症治療で使われているドネペジル塩酸塩が使われることもあります。



ドネペジル塩酸塩は人用の薬なので、必ず獣医師に相談してください
薬の使用は犬のためでもある
中には、認知症の愛犬に薬を使うことに抵抗感のある飼い主さんもいらっしゃいます。
ですが、シニア犬が一日中歩き回ったり鳴き続けたりするのは、犬にとってとても体力を使うこと。薬を使って犬を休ませ、睡眠時間を確保するというのも、犬の体力温存のためには重要な考え方です。
獣医師は、必要に応じて適正な量の薬を処方しています。



安心してお薬を使うようにしてください。
食事・サプリメントで日常的にサポート
抗酸化物質や、DHA・EPAといった不飽和脂肪酸は、脳の機能を維持するのに役立つといわれています。これらを含むフードを選んだり、サプリメントで取り入れたりするのもよいでしょう。
一般的には、シニア期に入る7歳前後から、こうした栄養素を意識した食事管理を少しずつ始めておくのがおすすめです。
認知症のシニア犬とどう向き合うか


とはいえ、介護が長引くと、飼い主さん自身の心と体も疲れてしまいます。ここでは、無理なく介護を続けるための考え方を2つご紹介します。
家族で介護の負担を分け合う
認知症の介護は、症状が進むほど昼夜を問わないケアが必要になり、飼い主さんの心身への負担も大きくなります。
ひとりで抱え込まず、家族内で役割やシフトを分担することが、長く穏やかに介護を続けるためには大切です。
動物病院や外部サービスを頼るという選択肢
愛犬のことを一生懸命考えている飼い主さんほど「自分1人で最期まで頑張らなければ」と抱え込んでしまいます。ですが、ご自分の生活や健康を犠牲にしてしまっては、犬にとってもご自身にとっても幸せとは言えません。



そこまで愛してくれる飼い主さんがいる犬は幸せ
つらいときは、動物病院に相談し頼ることも大切な選択肢のひとつです。老犬ホームやデイケアサービスといった外部のサポートを活用する方法もあります。
まとめ:頼れるところは頼って、最後の穏やかな日々を


犬の認知症について、進行状況ごとの症状や具体的な対処法、治療法などを解説しました。
- 認知症は病気そのものではなく、脳の老化によって認知機能が低下した「状態」であり、加齢とともに発症割合が上がっていく
- 夜鳴きや徘徊、粗相などの症状は進行段階によって変化する。それぞれの段階に応じたケアを。
- 認知症でも愛犬に飼い主さんの愛情はしっかり届いている。ひとりで抱え込まず、グッズや動物病院、外部サービスも上手に頼って。
認知症になっても、愛犬はあなたのことを大切な家族として感じています。無理をしすぎず、使えるものは頼りながら、最期までできるだけ穏やかな時間を一緒に過ごしてあげてください。



ひとりで抱え込まないでね
ペットは年を取るほど、医療費が増えていくものです。老犬の介護やケアにもお金がとてもかかります。ペット保険・貯金の関係については、次の記事で解説しています。




