犬の混合ワクチンは、フィラリア予防・ノミダニ予防と並ぶ「感染症予防の三本柱」のひとつです。子犬のころは言われるままに打っていても、成犬になると「元気だし、もう打たなくてもいいのでは」と感じる飼い主さんは少なくありません。
- 去年打ったから今年は打たなくてもいいのでは?
- うちの子はほとんど外に出ないから、打たなくてもいいのでは?
- シニア犬になっても打ち続けて大丈夫?
この記事では、その理由と、打たないとどうなるのか、室内犬やシニア犬の場合はどう考えればよいのかを、獣医師の視点で解説します。
なお、犬の体調や年齢によって適した対応は変わります。最終的な判断は、必ずかかりつけの動物病院で相談してくださいね。
にゃーすワクチンは予防の三本柱のひとつだよ
犬のワクチンは2種類:「狂犬病」と「混合」の違い


犬のワクチンは、大きく分けて「狂犬病ワクチン」と「混合ワクチン」の2種類があります。この2つは、法律上の位置づけも、予防する病気もまったく違います。
狂犬病ワクチンは法律で定められているワクチン
狂犬病ワクチンは、狂犬病予防法という法律で接種が義務づけられているワクチンです。生後91日以降のすべての犬が対象で、年1回の接種が必要です。
世界では年間約6万人が命を落とす病気
狂犬病は犬だけではなく、人も含めた哺乳類に感染し、発症するとほぼ100%命を落とす非常に怖い病気です。日本で暮らしていると、「狂犬病は過去の病気」というイメージを持つ方も多いでしょう。
確かに、日本国内での人の狂犬病発症事例は1950年代が最後です。
しかし、発展途上国など、狂犬病に関する法整備が整っていない国では今でも狂犬病は発生しており、世界中で年間およそ6万人が亡くなっています。
万が一国内に入っても、広まらないようにワクチンを打っておく
人や荷物が頻繁に国を超えて行き来する現代において、海外から狂犬病ウイルスが入ってくる可能性はゼロではありません。
まずは、海外から動物を日本に持ち込むときは空港や港の動物検疫で検査を受けて「狂犬病を持ち込ませない」ようにし、さらに、万が一日本に入ってきても「犬に広げない」ために、犬へのワクチン接種をしておく。
これが今日本が取っている狂犬病の対策です。正当な理由なく狂犬病の接種を受けさせないと、20万円以下の罰金の対象になることもあります。
狂犬病のワクチン接種率は70%程度
ところが、狂犬病ワクチンの接種率は年々下がっています。
「いま日本にはない病気だから大丈夫だろう」と油断せず、自分の犬を守るためにも毎年の接種を続けることが大切です。



狂犬病は法律で決まった義務だよ
混合ワクチンは任意のワクチン
一方の混合ワクチンは、法律上の義務はない「任意」のワクチンです。ワクチンを打っていなくても罰則はありません。
その理由を、次の章でくわしく見ていきます。
混合ワクチンは本当に必要?打たないとどうなる?


義務ではない混合ワクチンを、それでも打つ理由は大きく3つあります。
- 命に関わる感染症から愛犬を守るため
- まわりの犬に感染を広げないため
- ペットホテル、ドッグラン、災害時の預け先で困らないため
それぞれ解説します。
命に関わる感染症から愛犬を守るため
混合ワクチンは、命に関わる複数の感染症をまとめて予防できます。特に、感染力や致死率の高い病気を防ぐワクチンは「コアワクチン」と呼ばれ、すべての犬への接種が推奨されています。
子犬やシニア犬、持病のある犬は免疫の力が弱く、数日で命を落としてしまうこともあります。
たとえば犬パルボウイルス感染症は感染力がとても強く、入院になると動物病院でも大がかりな対策が必要です。その犬を隔離し、世話をするスタッフを1人に決め、使い捨てのガウンや手袋を使い、触れた場所はすべて消毒します。
ペットの命が危険なだけでなく、入院費も通常より高くなり、飼い主さんにも心理的、金銭的な負担がかかります。



ワクチンで防げる病気は、防いでおくに越したことはありません。
まわりの犬に感染を広げないため
ワクチンを打ってその病気に対して免疫を持つ犬が増えると、その感染症は流行しにくくなります。これを集団免疫といいます。
自分の犬を守るだけでなく、まだワクチンを打てない子犬や、病気で打てない犬を守ることにもつながります。
ペットホテルやドッグラン、災害時の預け先に困らないため
ペットホテル、トリミングサロン、ドッグラン、しつけ教室など、不特定多数の犬が利用する施設では、感染症のまん延を防ぐため、多くの場合1年以内のワクチン接種証明書の提示を求められます。
ワクチンを打っていないと、普段の生活でこうした施設を使えないだけでなく、急な出張や入院のときに預け先が見つからない、ということにもなりかねません。
災害時に避難先でペットを預ける場合も同じです。ワクチンを打っていない犬は預かってもらえないこともあります。
災害への備えについては、ペットの防災対策の記事も参考にしてください。



動物病院でもらう接種証明書は、捨てずに保管しておこう
成犬になっても毎年打つ必要はある?


「危険な子犬の時期を無事に過ぎたのだから、もう打たなくてもいいのでは」と考える方もいます。ここでは、毎年続ける理由と、室内犬・シニア犬の場合の考え方を説明します。
免疫は時間とともに弱くなる
ワクチンでついた免疫は生涯ずっと続くわけではなく、時間がたつと少しずつ弱くなっていきます。
ワクチンの前には、獣医師が体の状態を確認します。この時に、体重の変化や心臓の雑音など、ふだんの生活では気づきにくい異常が見つかることもあります。年に1回の健康チェックの機会にもなります。
室内犬でも必要
ほとんど外に出ない犬でも、感染症にかかる可能性がゼロになるわけではありません。動物病院やトリミングサロンではほかの犬と同じ空間で過ごしますし、ウイルスによっては、人の手などを介してうつることもあります。
先ほど紹介したように、犬と一緒に利用するレジャー施設や預け先で接種証明書が必要になる場面もあります。



室内犬でも混合ワクチン接種は続けよう
シニア犬や持病のある犬は、動物病院で相談を
ワクチンの前の診察で、その日の接種を見送ったり、打つ種類を変えたりすることがあります。
- ワクチンでアレルギー反応が出たことがある犬:接種をやめるか、種類の少ないワクチンに変える(8種から6種にするなど)といった方法があります
- 高齢で、外に出ることもほかの犬と会うこともない犬:感染する機会が少ないため、打たないという選択もあります
- 持病のある犬:体調のよいときに受けるのが基本です
- 妊娠中・授乳中の犬:接種は見合わせます
狂犬病ワクチンにも、高齢や病気の犬については獣医師の判断で接種を猶予できる制度があります。
「年をとったから、もういいだろう」と自己判断でやめてしまうのではなく、その子の体調と暮らし方を伝えたうえで、かかりつけの動物病院と相談して決めましょう。
シニア期のケアについては、老犬・老猫のシニアケアの記事も参考にしてください。
病院で打つワクチンは何種?5種・6種・8種の違い


「何種のワクチンを打つか」は、動物病院が採用しているワクチンと、獣医師のすすめで決まることがほとんどです。
「5種」や「6種」の「種」は、そのワクチン1本で予防できる病気の数を表しています。ただしレプトスピラ症は原因になる菌のタイプがいくつかあり、タイプごとに1種と数えます。そのため8種以上のワクチンでは、病名の数と「種」の数が合わないことがあります。
数が多いほど「良い」というわけではありません。含まれる種類が増えると、そのぶんアレルギー反応が出やすくなるという面もあります。
多くの動物病院で扱っているのは、次の3つです。
- 5種:基本になる組み合わせ
- 6種:5種+犬コロナウイルス感染症を加えたもの
- 8種以上:さらにレプトスピラ症を加えたもの
基本の5種で防げる病気
基本の5種で予防できるのは、次の病気です。
- 犬ジステンパーウイルス感染症
- 犬パルボウイルス感染症
- 犬伝染性肝炎
- 犬伝染性喉頭気管炎(犬アデノウイルス2型感染症)
- 犬パラインフルエンザ感染症
このうち犬パラインフルエンザ以外の4つが、すべての犬に接種がすすめられるコアワクチンです。
6種で加わる犬コロナウイルス感染症は、成犬では症状が出ないことも多い病気です。そのため、5種を採用している動物病院も多いです。
自然の多い場所へ行く犬は8種も考える
8種以上で加わるレプトスピラ症は、野ネズミなどの尿に含まれる細菌が、水や土を通して皮膚や粘膜からうつる病気です。肝臓や腎臓に障害を起こし、重症になると命に関わります。
河川敷や山、キャンプなど自然の多い場所へよく行く犬や、野ネズミのいる地域で暮らす犬には、レプトスピラ症の入ったワクチンがすすめられます。



散歩コースやお出かけ先を先生に伝えてね
接種スケジュールと費用の目安


ワクチンは、年齢によって接種の回数やタイミングが変わります。費用の目安とあわせて確認しておきましょう。
子犬は生後2か月ごろから2〜3回
生まれたばかりの子犬は、母犬の初乳から受け取った「移行抗体」という免疫で守られています。この移行抗体は成長とともに自然に減っていきますが、いつ減るかには個体差があります。
そのため、抗体が切れるタイミングを取りこぼさないよう、子犬期は生後2か月ごろから約1か月おきに2〜3回接種するのが一般的です。
1回目は、ペットショップやブリーダーのもとで済ませていることが多いです。子犬を迎えたときには、「いつ・何種を打ったか」を購入元に確認しておきましょう。
狂犬病ワクチンは、この混合ワクチンのプログラムが落ち着いたあと、生後91日以降に接種します。
散歩デビューはワクチンが終わって2週間後から
子犬をドッグランなど、ほかの犬と接する場所に連れていくのは、子犬期のワクチンをすべて終え、免疫がつくまでの2週間ほどを待ってからにしましょう。
ただ、生後4か月ごろまでは、人やほかの犬、外の音に慣れる大切な時期でもあります。それまでは抱っこやペットカートで外に出て、地面に下ろさずに外の世界を見せてあげるのもおすすめです。
成犬は年1回
成犬になってからは、混合ワクチンも狂犬病ワクチンも年1回です。
狂犬病ワクチンは、毎年4月〜6月ごろが接種の時期の目安で、動物病院か、自治体の集合注射の会場で受けられます。



自治体から届くハガキを忘れずに持っていこう
費用の目安
金額は動物病院によって異なりますが、おおよその目安は次のとおりです。
- 狂犬病ワクチン:3,000円前後(別途、注射済票の交付手数料や、初回は登録料がかかる)
- 混合ワクチン:5種で5,000〜7,500円、種類が増えるほど高くなる傾向
正確な金額は、接種前にかかりつけの病院で確認してください。
気になる副反応と、接種当日の過ごし方


ワクチンは病気を防ぐ大切なものですが、まれに副反応が出ることもあります。副反応の確率はとても低いので、過度に怖がる必要はありませんが、正しく知って備えておきましょう。
主な副反応には、次のようなものがあります。
- 元気がなくなる
- 食欲が落ちる
- 接種部位が腫れる
多くは接種後24時間以内に起こり、数日で治まることがほとんどです。
アナフィラキシーとは
一方で、ごくまれにアナフィラキシーという重いアレルギー反応が起こることがあります。これは接種後30分以内に現れることが多い反応です。
- 顔がパンパンに腫れる(ムーンフェイス)
- 嘔吐
- 呼吸が苦しそう
- ぐったりする
といった症状が見られたら、ワクチンを打った動物病院をすぐに受診してください。
接種は午前中の診察時間がおすすめ
もし、接種後に強い反応が起きた時にすぐ対処できるよう、ワクチン接種は動物病院が開いている午前中に接種するのがおすすめです。万が一、接種後に体調が変化しても、その日のうちに対応してもらいやすくなります。
接種した当日は、はげしい運動は避け、安静に過ごしてしっかり様子を見てあげましょう。シャンプーは2日ほど控えてください。
よくある質問(FAQ)


犬のワクチンについて、よく寄せられる質問をまとめました。
まとめ:室内犬もシニア犬も、年1回のワクチンで愛犬を守ろう


犬のワクチンが毎年必要な理由と、室内犬・シニア犬の場合の考え方を解説してきました。最後に大切なポイントをおさらいします。
- 狂犬病は法律で義務、混合は任意。ただし混合も、愛犬とまわりの犬を守り、預け先に困らないために欠かせない
- 免疫は時間とともに弱くなるので、成犬になっても年1回続ける。室内犬も同じ
- シニア犬や持病のある犬は、自己判断でやめずに動物病院で相談する
ワクチンは、フィラリアやノミ・ダニの予防と並ぶ、愛犬を病気から守る基本の備えです。成犬になっても、室内で暮らしていても、年に1回の接種を習慣にしていきましょう。
あわせて、犬のフィラリア症やノミ・ダニ予防、マダニが媒介するSFTSの記事もチェックして、予防の三本柱もチェックしてみてくださいね。





